小屋での仕事:ロープを揃える日
雨が降る日は、網の作業ができません。
そんな日は、小屋にこもって、海苔の養殖に使うロープの整備をします。
ロープの長さを揃えて、9本ずつまとめる作業。
用途に応じて、内側用に4セット、外側用に2セット──
季節の準備としては、けっこうな数になります。
ロープには、以前使ったままの汚れや、フジツボなどの海の生き物がついています。
小さなマイナスドライバーのような道具を使って、それをひとつずつこそぎ落としながら、
傷んでいるところは組み直して、また使えるようにします。
この作業は地味だけれど、とても大事な下準備です。
ロープの長さがそろっていないと、
海の網の高さがバラバラになり、海の上で、海苔の乾き方にムラが出てしまいます。
それが仕上がりに響くので、ここは手を抜けません。
数が多くて大変だけど、
こういう日があるから、いざ海に出たときに慌てずにすみます。
いつものように、親父と小屋で
雨の音だけが、ぽつぽつと小屋の屋根を叩いていた。
親父は黙ったまま、ロープを結んでいる。
特に話すこともなく、特に急ぐ様子もない。
手元ばかり見ていて、たまにこちらをちらっと見るけれど、
別に何か言うわけでもない。
昔はもっと、声がしていた気がする。
母がよくしゃべる人だったから、小屋の中も、にぎやかだった。
今は親父と二人だけの作業。
母を雨の降る中見送ってから、小屋はずいぶん静かになった。
たぶん、こんな日がいちばん普通だ。
なんということもないけれど、
たしかにそこにある、いつもの時間。
雨に濡れながら、畑の甘長唐辛子
小屋からの帰り道、畑に寄ってみた。
雨はまだぱらついていたけれど、唐辛子の様子が気になっていた。
葉のあいだから、細長い実がひとつ、そっとぶら下がっていた。
赤くはならない、甘長唐辛子という品種らしい。

雨に濡れているのに、まっすぐ立っているその姿を見て、
なんだか励まされたような気がした。
小さくても、確かに育っている。
静かな一日だったけれど、自然はちゃんと動いている。
それを見られただけで、今日も少し前に進めた気がする。
静かな雨の日に、少しだけ前へ
今日は海には出られなかったけれど、
小屋でロープを整えて、畑で唐辛子の実に気づいて、
それだけでも十分な一日だった気がします。
自然は待ってくれないけれど、
ちゃんと向き合えば、すこしずつ応えてくれる。
雨音の中で手を動かしながら、
また次の準備が進んでいくような、そんな気がしました。
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