海の田植え。採苗が始まった11月

親父さんの一言、「田植えのようなもんじゃ」

「ブログに採苗のことを書いてみようと思うんだけど、うまい説明ができん。どんな感じに書けば分かりやすいかね~」
そう親父さんに冗談まじりで聞いたら、笑いながら「海のことは知られとらんけん、田植えを例えに出したらええんじゃないか」と言われた。
なるほど、たしかにその通りだ。
採苗(さいびょう)とは、海苔の“種”を海の網に付ける作業。言ってみれば“海の田植え”みたいなものだ。
この日から、海苔の一年が静かに動き出す。

竹立ての最中、今年も始まった採苗

今年の採苗が決まったのは、まだ竹立ての真っ最中。
「もうそんな時期か」と思うと同時に、「やっぱり11月になったか~」と感じた。
去年は海水温が下がりきる前に見切り発車で始めたせいで、同じ組合の中でも水揚げにかなりの差が出た。
潮の流れや場所の違いで結果が大きく変わる。そういう世界だからこそ、タイミングひとつが勝負になる。

夜明け前の出港、光る航海灯とカメラマンたち

今年は風もなく、落ち着いた海だった。
福岡県では朝5時から出港が可能で、時間になるとどの船もほぼ同じタイミングで港を離れていく。
まだ夜が明ける前で、海の上には点々と航海灯が光っていた。
その光がまるで星のようで、黒い海の上に散りばめられているように見える。
堤防にはカメラを構えた写真家さんたちの姿があり、すれ違うたびに手を振って挨拶を交わす。
静かな海に、エンジン音だけが響いていた。

仲間たちと、海の上での共同作業

現場に着くと、昔からの海苔師さんや友人たちが手伝いに来てくれていた。
小さな長方形の箱舟に船外機をつけ、そこに網を積んでポイントまで運ぶ。
マクラに網を引っかけ、豪快に海へ落とし込むと同時に船外機のアクセルをふかす。
波を切りながら反対側のマクラまで一気に引っ張る。
その横では、親船のクレーンを操作して網を持ち上げてくれている。
昔は人の力で持ち上げて、広げて、結んで――と何時間もかかった作業だった。
今は道具が進化して、4時間もあればすべて終わる。
それでも一枚一枚の網には、みんなの息が合ったチームワークが詰まっている。

暑さの残る11月、それでも今年は前を向いて

11月になったとはいえ、まだ日中は暑い。
海水も思ったほど冷たくなく、作業中は汗が流れるほどだった。
けれど去年のように「何もできない」状況ではない。
水温の変化を見ながら、少しずつ良い方向に持っていけそうな手ごたえがある。
この一年をどう過ごすか、その第一歩がこの採苗だ。
新しい海苔の季節に向けて、また親父さんと並んで海に出る。
――“海の田植え”が終わった静かな海を見ながら、今年もがんばっていこうと思った。

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