潮の速い海で“矢”を打つ。父と息を合わせた日

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潮の速い場所で「矢」を打ち込む日

潮の流れが速い場所では、マクラ(支柱の両端にある6本ずつ、計12本の支え)が潮の力に負けて傾いてしまうことがある。そんな時に使うのが「矢」だ。
矢は、テントを地面に固定するペグのような役割をしてくれる。海底に斜めに打ち込み、そこからヒモを伸ばしてマクラと結ぶ。マクラと矢の間はおよそ2メートル。矢が海底近くからマクラを引っ張り、潮に流されてもまっすぐ立つように支えてくれる。

この作業は、潮の引いた「干潮の前後2時間(合計4時間)」のうちに終わらせないといけない。潮が満ちてくると、海底が見えなくなって矢を打てなくなるからだ。
親父さんが船を操り、熊さんが矢を打ってマクラに結ぶ。これを一日で200本以上。途中で休む暇なんてほとんどない。潮の流れが速い上に、立ち位置が少しでもズレると矢が真っすぐ入らない。まさに時間との戦いだ。

他の人たちは2〜3日かける仕事だけど、親父さんの操船がうまいのか、それとも熊さんが慣れてきたのか、だいたい1日で終わる。
終わる頃には腕も足もパンパン。最後は甲板にゴロンと寝転がって、潮風を浴びながら「ふぅ〜…」と一息。そんな瞬間が、なんだかんだで一番好きだったりする。

声をかけ合うリズム

矢を打つときは、親父さんと熊さんで息を合わせる。
「もうちょい右!」「OK、ここ!」
言葉は短いけど、それで十分。お互いが次に何をするか分かっているから、船の動きも矢を打つタイミングもぴったり合う。
潮の流れが速くても、無駄のない動きで次々に進めていけるのは、長年一緒にやってきたからだと思う。

ふとそんな時、昔のことを思い出す。
母さんがいた頃は、3人でこの作業をしていた。
小舟をもう一艘出して、母さんがそれを運転して、親父さんが矢を打って、熊さんが小舟でロープを結んでいた。
あの頃は本当に作業が早く終わって、途中でお茶を飲みながら笑って話す余裕もあった。
母さんの声と笑いが、潮風の音に混じっていたのを今でも覚えている。
今は二人になったけど、あの頃のリズムが、どこか身体に染みついている気がする。

長すぎた夏のあとに

今年の夏は、とにかく長かった。
10月に入っても船の上は40℃を超える日があって、まるで真夏のまま時間が止まったようだった。
けど、今日は21日。最高気温は23℃。ついこの前の15日は33℃だったのに、たった一週間で秋が一気にやってきた感じだ。

急に冷え込むと、海苔の“種殻”の管理がむずかしくなる。
水温が下がりすぎると、まだ育てる前に種が出てしまうからだ。
だから今は、毎日ストーブを二つ焚いて、水温を下げすぎないように見張っている。
朝に温度を見て、昼にもう一度。まるで赤ちゃんを育てるみたいに気を配っている。

ふと空を見上げると、うろこ雲…いや、羊雲かな?
空が高くなって、風もやわらかくなった。
夏の名残を少しだけ感じながら、海の上もゆっくりと秋の色に変わっていく。

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